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shichigatsuiのブログ

書きたいときに書く

虫違い

 恋人と深大寺に紫陽花を見に行った時に、少年くらいの背丈の桑だかの木が、金網で囲われているのを見つけた。網の中を覗き込んでみると、何か貴重な蝶になるらしい芋虫が木についていた。始めは一匹、二匹だったが、よくよく見ると予想以上に多くの芋虫が枝にくっついているのを発見した。芋虫には二本の小さな角のような触覚があって、うにうにと葉っぱを食べていたり、もうサナギになるのか、枝にぶら下がってじっとしていたり、はたまた芋虫同士でケンカをしていたり、思い思いに過ごしていた。個性豊かなもちもちの芋虫たちをひとしきり観察した後、咲き始めの紫陽花を見ながら、私達はやや曇った深大寺を巡ったのであった。
 帰路、芋虫のことを思い浮かべながら、「さっきの虫はすごかったねえ。」と、恋人に話しかけた。すると、「うん。何か、ふわ~ってね。」と、彼はにこにこしながら答えた。芋虫はもちもちはしていたが、あんまりふわ~っとはしていなかった気がする。一瞬、私の頭にハテナが広がったが、すぐに合点がいった。彼は、「すごい虫」と言われて、別の虫を思い出していたのだ。
 芋虫の囲いを見つける少し前に、私達は小さな池庭に立ち寄っていた。竹垣の奥に小さな池があり、その上を古民家の渡り廊下が行く、緑に囲まれた風情ある景色を見ていると、直径5ミリ、太さ髪の毛3本ほどのごく小さな虫が、高いところにある枝から糸を引いてふわふわ落ちてきた。訳のわからない細かい虫が、深大寺の綺麗な池庭を背景に、うねうねしながら空中に漂っている不思議さに、二人で笑ったのだった。
 そっちか。iPhoneのカメラで、いかに上手く葉っぱの上の水滴を撮れるか競ったこととか、蕎麦屋の狭い庭で、通常あるべき姿の五倍くらいの速さで、ししおどしと水車に水がジャバジャバ流れていたことや、行こうと思っていた植物園がお休みで、「ガビーン」と口に出して言ったことに埋もれて、そのよくわからない虫のことを忘れていたよ。
 他人というものは、同じ景色を見ていても、違うことに感動している。結局はわかりあえない異質性を好きな人から感じる時、他人が自分でないことが憎らしく、途方もなく寂しくなることがあったのだが、変な虫をすごいと思っている恋人が、じわじわと滲んでいくように愛おしかった。
 「違くて、芋虫の方。」
 「ああ、そっちか。」
 帰りはバスに乗らず、細い道で縦になったりしながら、駅まで歩いた。